海外留学を経験した先輩の声
海外留学のススメ ~色とりどりの景色を往復して~
山下哲史 先生
外に出て、初めて日本と自分の輪郭がはっきり見えました。米国の景色は色とりどりに、日本は以前より強く色づいて見えました。外で学び、内を見直す往復によって、やりがいを深め、価値の物差しを更新しました。
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- Q1 どこに留学していましたか?
- 米国ワシントンDCのChildren's National HospitalのCenter for Neuroscience Researchです(2019–2024年の5年間)。1–4階が小児病院、5–6階が研究所という"臨床と研究が隣り合う"環境でした。
- Q2 いつ留学しようと考えましたか?
- 学位取得の翌年(2017年)に決めました。海外生活への純粋な興味、また留学に挑戦する同期の背中を見て「自分も外で磨かれたい」と思ったことが出発点です。
- Q3 留学先はどう探しましたか?
- 2015年の大学院特別講義で出会った鳥居(橋本)和枝先生の研究領域が、自分のやってみたいテーマ(神経発生学、環境因子の脳発達への影響)と一致しました。改めて相談し、受け入れていただきました。
- Q4 奨学金や給与は?
- ロータリー財団のグローバル補助金で2年間の支援を頂き、渡米後は研究補助手当→NIHポスドクスケール相当の手当へ。支えてくださった皆さまに感謝しています。
- Q5 研究での"武器"は何でしたか?
- 大学院で身につけた iPS 細胞を扱う手技です。正直、大学院時代は辛くて「もう二度と…」と思ったほど。現地ではその積み上げが受け入れの決め手となり、信頼とコラボを呼ぶいちばんの強みになりました。"しんどい学びほど後で効く"と実感しました。
- Q6 何を研究していましたか?
- FASD(胎児アルコールスペクトラム障害)マウスモデルを使用した病態・治療検討、iPS大脳オルガノイド、RNA-seq/ATAC-seq解析などです。ポスドクは経験の無い事を自分で考えすすめる、という研究室の方針の下、たくさんのテーマに取り組みました。論文成果は以下の研究者ページをご覧ください。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/myncbi/1D3jwz-_5iWQw/collections/65774537/public/ - Q7 留学中、家族は?
- 渡米時、娘は年中、息子は小4。帰国時、娘は小4、息子は中3でした。子どもは5年間、現地校のみで過ごし、妻は2021–24にResearch assistantとして働きました。家族で協力し、初めての海外生活の様々な困難を乗り切り、絆が強くなりました。帰国後、人々や文化の多様性への尊重、日本の日常(水をはじめとした自然環境、安全、思いやり)への感謝が家族の共通言語となりました。
- Q8 アメリカのよいと感じたところは?
- 新しい挑戦に皆が前向きで、年齢に関係なく対等に意見を言い合える環境、説得力のあるプレゼンテーションなど、非常に刺激的でした。また家族との時間を大切にする文化が根付いており、休暇を満喫することができました。みんなで楽しむことが大好きで、それをとても大切にしており、パーティーの企画やパレードの演出など、素晴らしいと感じました。
- Q9 海外で実感した日本の価値は?
- ワシントンDCでは日常費(食費など)が肌感で京都の3–5倍。一方日本は水道水が飲めるうえ、コンビニのあんパンのように「清潔で安定した品質のパンが100円台で24時間どこでも買える」。水代・高い医療保険など海外なら別途払うコストに加え、こうした品質×価格×アクセス(手間の少なさ)が最初から生活に組み込まれている、「生活の含み益」を実感しました。そしてこれらは、地球上で奇跡的とも思える、日本の自然環境から生み出されたものであると感じています。
- Q10 英語とコミュニケーションで学んだことは?
- 今の時代、英語を避けるのは穏やかな鎖国、また日本式の"空気を読む"は米国ではほぼ"テレパシー"に近いと体感。娘と息子は対等以上に振る舞えるようになった一方、私と妻は英語力、そして世界・国際関係・宗教・母国日本についての知識不足を痛感。
結論→根拠→お願いを明示し、静かでも確かなアピール、"グローバルな伝え方"を肌で学びました。 - Q11 日米それぞれの強みをどのように生かせばよいと思いましたか?
- 日米の調和が大変強いと感じました。コミュニケーションは"周囲への配慮(日本)"×"ロジカルにストレートに(米国)"、仕事は"段取りと粘り(日本)"×"試作の速さと失敗許容(米国)"です。具体的には、プロジェクトで、まずは目的と結論を明確に(米国)、続いて相手への配慮と合意形成(日本)。実務は米国式で"まずやる"、そして日本式で"粘り強く磨く"。
- Q12 今感じる留学を通して得た、やりがい、価値について教えてください。
- やりがいは新しい事、興味のあることを学ぶ楽しさ。国際社会の中にある日本を考えながら自分なりに行動すること。価値は「家族と世界を共有する資本」や"生活の含み益"が増えること。この影響は今後一生続き、また新たなやりがいや価値を生むと思います。大きな体験投資でした。
- Q13 最後に一言
- 米国で目の当たりにした世界中の人々の多様な文化や価値観は、衝撃の連続でした。外から日本を眺め、日本の外に立って自分が何ができるかを体感することによって、日本と自分の輪郭が、以前よりくっきりしました。家族で世界そして母国日本を語り合える「家族と世界を共有する資本」が増え、損得の見え方が変わりました。それが今の生きがいややりがい、次への挑戦の礎になっています。「質問があれば気軽にどうぞ」
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研究室メンバー
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エンゼルスの大谷選手を見にボルチモアへ
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独立記念日コンサート
海外留学のススメ
金山拓誉 先生
2022~2024年の2年間(医師として15~17年目)に、米国Medical College of WisconsinにPostdoctoral Research Fellowとして研究留学する機会を得ました。帰国してから多くの方からお受けした質問を中心に回答してみましたので、海外留学に興味のある方にとって、少しでも参考になれば幸いです。
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- Q1 研究や留学を考えた経緯や時期は?
- 小児科専門医や血液専門医を取得したころ(6・8年目)、今考えると大変おこがましいのですが、それなりに臨床経験は積んだのかと勝手に思っていました。私の場合は、怠惰なので(!)、今後このまま年数が経過することで、症例の経験が増えることはあっても、自発的に何かを学び、違った視点から臨床を捉えることはなさそう・・・と思いました。
ちょうどこの頃に恩師から大学院での基礎研究を行うことをお勧めいただきました。やってみると、それまで臨床であまり深く意味も考えずに行っていた検査や治療一つとっても見え方が変わるのを日々感じましたし、根本的に臨床とは違う考え方に触れることができたと感じました。
大学院を修了してもう一度臨床に戻ると、やはり同じような症例を診ていてもまた違った捉え方ができることを実感できました。臨床も好きだが研究ももっと踏み込んでやってみたい、それも未知の場所で試してみたい、と思うようになりました。 - Q2 留学先はどのように探した?
- 私の場合、留学先を探す時期はちょうどコロナ禍の時代でしたのであまり参考にはならないかもしれません。
おそらく、平時であれば学会で留学を考えている研究室にコンタクトを取ったり、実際に研究室に見学に行ったり、などといったパターンが多いのではないかと思います。あるいは、先輩や知り合いからの紹介ということも多いでしょう。残念ながらコロナ禍は学会も延期もしくはweb開催でしたし、渡航などできるような状態ではありませんでした。ただ、留学生を受け入れているラボ側にとってもリクルートに難渋し、需要自体はあったようでした。日本人の受け入れ実績があるラボは日本人が概して真面目であるという印象を持っていることが多いので、「〇〇ラボで日本人のポスドクを募集しています」といったメールがあちこちから回ってくる状況でもありました。私の場合は、そのうちの一つに応募させていただき、幸い採用いただくことが出来ました。
今はまた違った時代になっているとはいえ、いずれにしても直接的/間接的に関わらず何らかの形でラボに接触しないと何も進みませんから、普段から国内外問わず知り合いになっておくことは大事だと思います。 - Q3 留学前にしておいた方がよいことは?
- 前項ともつながりますが、まずは海外学会に出かけることを強くおすすめします。色々な人と出会えるということもありますが、スケールに圧倒されて何よりモチベーションにつながると思います。発表があるならもちろん、そうでなくとも参加されることはとても意義があると思います。大学院生の間に、是非一度は思い切って参加すると良いと思います。 あとは、なんといっても言語です。私は正直な話、それなりに英語論文を読んだりしているのだからなんとか大丈夫だろう、などと完全に侮ってしまっていましたが、日常の会話が本当にわかりませんでした。学会や研究の内容であれば比較的かっちりした言い回しですし、分かった気になってしまっていました。確かに内容はある程度理解できてはいたものの、実は英語を完全に聞き取れて理解していたのではなく、元々もっていた背景知識やスライドで補足されて理解できていただけだった、ということに遅まきながら気づきました。スーパーでの会話や、子どもがしゃべっている会話すらよく聞き取れない、というのは渡米してから本当に落ち込む現象でしたので、「英会話」は是非力を入れておいた方がよいと思います。
- Q4 家族を連れていくのはどうでしょうか?
- 特にお子さんがおられる場合に気になられる点だと思います。私の場合、渡米時の子どもの年齢は8歳・6歳・3歳でしたが、この年齢までであれば、言語的には全く問題ないと感じました。日本語学校もない地域でしたので現地校しか選択肢がありませんでしたが、言葉もわからないのに学校でいきなり友達とキャッキャと遊んでいるのは凄いことだと思いましたし、まただからこそ英語の習得も早いのだと思いました。半年もすると、学校の先生の言葉もだいたい聞き取れるといっていたので驚きました。
ただし、授業の内容は初めのうちは日本語で予習気味に自宅で教えてあげたり、助けてあげることは必要だと思います。一方、漢字は現地の生活で必要ないので全くやろうとしません。本当に苦でしかないようでしたが、これだけはなんとか頑張らせていました。初めは、英語が大丈夫なのだろうか、と心配して行ったのに、帰国する頃には逆の心配をするようになるぐらいでした・・・。
個人的には、言語というだけでなく、小さい内に自分の国以外の分化を経験することで価値観が変わると思いますし、また日本のこともより好きになるのではないかと思うので家族連れでの留学こそお勧めだと思います。とはいえ、自分の都合で家族を巻き込むのはとても重要な決断だと思いますので、特に配偶者の方とは、留学を視野に入れている時点からよく話し合われることがもちろん必要だと思います。
生活しているだけでトラブルが多発したり、どうしても金銭的には日本にいる時よりも苦しかったりもしますが、助け合っていくしかないので、日本にいる時よりも家族の絆ができるのではないかと思います。本当に危険なトラブルには幸い遭わなかったこともありますが、楽しかったことだけでなく、当時のトラブルこそ今でも思い出して家族で笑って話せるぐらいです。 - Q5 最後に一言
- 研究者としても、また人生の経験としても、留学を前向きに考えてみてはいかがでしょうか!実際どうなの?といったことなど、いつでもお気軽にお問い合わせください。
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大学全景。ウィスコンシン小児病院と隣接
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冬場はほぼ常に積雪でした
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研究室にて